署名の意義と文書における責任の理解

 

2021.12 署名の大切さ

https://youtu.be/bEsl1zAzPS0

 

3年程前に、とある人の保証人になりましたら、支払いを請求されてしまいまして、家内からは、「自分で払いなさいよ」と。

大抵の人は成人する前に親から、人の保証人になってはいけないと教えてもらうことと思いますが、この年になって他人の借金を背負ってしまいました。

既に1年ほど支払っております。

この場合で言うと保証契約ですけど、一定の文書に署名をするということには責任が伴うということの実例に挙げてみました。

 

さて、普段難易げなくしている署名やサイン。

意味は同じですけど、『荷下ろし確認書』にしても立会者様のサインを求めるといった行為にどれほどの効果があるか、我々がする署名、サインがどのようにして責任問題に発展をするのかを事前に知ることで無用なトラブルからの予防につながるのかなと思います。

 

文書への署名、押印の証拠能力については民事訴訟法228条に記載があります。

ある『私文書』に本人または代理人が署名、又は押印をすることは、この私文書が真正に成立したと推定されることを意味します。

 

【民亊訴訟法228-4項前段】

私文書は、本人又は代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。

 

似た言葉で『公文書』というものがあります。

こちらは公務員が職務上作成した文書は真正に成立したと推定されます。

 

【民訴228-2項】

文書は、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認めるべきときは、真正に成立した公文書と推定する。

【民訴228-3項】

公文書の成立の真否について疑いがあるときは、裁判所は、職権で、当該官庁又は公署に照会をすることができる。

 

この推定というのは、とても便利なもので私文書が真正にできたという証拠能力の観点から、「一定の要件を備えていれば一旦は真正であるとして扱かって、そうじゃないんだ!冗談だったんだよ。(心裡留保・相手が悪意で無効、ただし善意の第三者には対抗できない)偽物なんだよ。(通謀虚偽表示・無効、ただし善意の第三者に抵抗できない)とか、勘違いだ。(錯誤・取り消せる、ただし勘違いしていることが明示されているとか、悪意または重過失、若しくは相手方も錯誤にあること、ただし相手方が善意無過失のときは対抗できない。)

騙されたんだとか、(詐欺・取り消せる。ただし相手方が悪意又は有過失のときに。ただし善意かつ無過失の第三者に対抗できない)

強迫されたんだよ(強迫・取り消せる)といった 反証をすることで覆すことができますよ。」というものです。

反証をするときは、文書が真正に成立したものではないと相当程度に根拠を記すと言いますが、困難は伴うものと思います。

ちなみに「見做す」というのは反証を許さない、覆せませんよ。という強い意味があります。

見做すと推定するは使い方が異なることに注意が必要です。

そしてこの私文書に対する真正な成立を推定する力には、「二段の推定」と言う言葉の技術があります。

 

①     民訴228-4項前段、署名又は押印の「押印」について押印による印影が

所有者の印章であるのだから本人の意思に基づいてるよね?という事実上の推定をし、

(一段目の推定s39.5.12)

 

②     私文書への署名又は押印があること自体が、「私の意思に基づいて作成(成立)したものですよ~」という条文上の推定が働くという理屈です。

(二段目の推定・民訴228-4項)

 

文書の作成と完成には署名を求めるんですね。

文書の作成人として『文書を完成させる』意図で行う署名と、安全会議における『文書の内容』に同意する意図で行う署名とは、厳密には異なりますが、『署名をする』といった行為には責任がついてくるという仕組みを知るためにお話をさせてもらいました。

安全会議の文書にサインを求めることの意味は、『知っている』『同意した』という証拠を求めているんです。

このようなことから、署名、サインと呼び方は違いますが、会議の一つをとってみても、事後に署名を求められることの理由は、会議記録は「真正に成立したという推定を働かせるため」に行うといった側面もあります。

 

 

 

 

(不法行為、使用者責任、求償を参照)

文書の内容を知っている。

理解しているからサインをしたのだ。

文書内の内容に反する行動をした時は、うっかりの度合いが大きいのか【重過失】

あえてやった。わざとやった。【故意】なのであるから、使用者は被用者に対して実質的な無過失責任を負うとされる使用者責任について、義務を全うしていたという抗弁を主張することが出来るようになります。

 

【民法715-1項】

ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。

 

日常の業務以外でも一人の行動が、この会社の行動であると評価されることがあります。

行為を受けた側からすると、所属している会社の装いが外見上認められ、その行為に違法性(不当)があったときには、その事実行為(不法行為)の行為者が非番(休み)であったとしても事業の執行に伴う不法行為であったと判断がされることがあり、使用者が賠償の責任を負う可能性があります。

 

【国家賠償 昭和31年11月30日】

判例では、非番の警察官が制服を着て、自己の利をはかる意図をもってする場合でも客観的に職務執行の外形をそなえる行為をして、これによって他人に損害を加えた場合には、国または公共団体に損害賠償の責を負わしめて、広く国民の権益を擁護することをもって、その立法の趣旨(国家賠償法)とするものと解すべきである。

警察官は国の機関(国には手も足もない)ですので、その執行機関たる警察官がした行為は、外見上、制服を着ていた。警察手帳もあった。という状況なのであれば、実際には非番であるという理由があったとしても、公権力の行使であると信じるに足り国民の権益を擁護するためにも国家賠償請求を認めるといったものです。

 

丸ごと民間に当てはめるべきかという問題もあろうかと思いますが、客観的に事業の執行であると認められる状況は、賠償問題【民915-2項 使用者責任】になり得る可能性がある。

 

 

 

【民415 債務不履行】

債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債務者は、これによって生じた損害の賠償を請求することが出来る。

ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

 

それは自分の会社でなくても事業の執行となることもあります。

 

【民632 請負契約】

請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

 

話して聞かせてサインをさせることの意図は、このような仕組みの下で励行されているといった事情を知ると、何気にサインをすることの重要性が感じ取れるのではないでしょうか?

 

署名、契約に関連した小話で、特定商取引法というものがあるのですが、クーリングオフという言葉を耳にしたことがあるかと思います。

 

家屋のリフォームに関して、あえて高齢の方に目星をつけて契約をさせ、またクーリングオフが成立しないように言葉巧みに振舞うといったことが問題になったことがあります。

営業者が自分の事務所ではなくて訪問をしてする契約の時には、契約をした買主は、書面でクーリングオフの制度を説明されてから8日以内であれば無償で解約をすることができるというものです。

因みにクーリングオフとはよく耳にすることと思いますが、自宅に訪問されてする契約が対象になります。

有名なところでは、営業者を喫茶店に呼び出してする契約であってもクーリングオフができるとか、自分の職場に呼び出してした契約はクーリングオフができないとか、原則、例外が混在しますので条文を確認されるのがよろしいかと思います。

 

冒頭でもお伝えしました受領印、受領したことの署名には知っています。受け取りました。という証拠になるものです。

たかがサインと軽視することなく、自身を守る貴重な判断材料になりますので、大切に扱うことが必要です。