職業運転手が知るべき権利と責任の理解

 

2021.2  https://youtu.be/4f_C_VeGejs

 

 

権利利益と行為能力

~職業運転手の責任~

 

皆さん、ご自分の今いる環境、状況について考えたりしたことはあるでしょうか?
私は、10年前、35歳の時にとある会社を退職しました。

当時、大抵のことは何でもできると思い込んでいました節がありましたので、職業運転手が体調を崩したことによる社会的地位の脆弱さを思い知らされることになりました。

今思えば、その時にいた環境へのありがたさや、感謝というものを蔑ろにしていたなと思い返しています。

再就職をしようにも病気を発症したドライバーは雇ってもらえない。

大型、牽引、危険物、運行管理者資格を持っていても就職できない随分と不安定な環境だったんですけどね。

 

さてこんな話をして皆さんが楽しいのかどうか、私は楽しいんですけどね。

これから当時勉強していた内容を皆さんにも伝わりやすく!?お話しすることで、就業環境への思いを新たにしつつ、且つ自分の保身のためにも役立ててもらえたらな。と思います。

ごく基本的なお話としてこういったテーマを挙げてみました。

 

権利って何よ、人権って何よ。って話になってくるのですが、知っている人も多くいると思うのですよ。

一番最初に安全会議をしたときのテーマがこれに近かったんです。

似たような話になるんですが、情報を整理するという意味も込めて、今回は権利利益と行為能力というお話をします。

一昨年の夏に権利と義務の話をしました。

そのときは、人権というところにスポットを当ててお話をしたのですが、わずか1.2時間くらいで人権を語るのは無理がありますので随分と端折った内容だったなぁと記憶しています。

そもそも、わたし、学者じゃありませんので、世間一般論としての人権としてお話をしたわけですけれども、人間、たかが一回聞いただけの内容を記憶に留めるなんてことはできないですよ。

記憶に残るような特別な出来事があったりしたら別ですけど。

 

そんなわけで、一昨年の話を復習しつつも権利利益と行為能力というお話をしていきます。

これが我々の職業にどうつながるのだ?と疑問に思うでしょうけど。

そのうちに、あー、こんな話もしていたなと思い出してもらえたらと思います。

 

さて、我々の人権とか権利とか、この『権』という文字、いたるところに出てきます。

憲法にもあるのですが、人権の他に財産権とか。

利益の性質による分類で非財産権的なものを人権、財産権にあたるものを物権、債権、と呼びます。

その他に効力の範囲による分類で絶対的効力がある人権や物権があり、相対的に効力があるもので、債権という分け方もあります。

請求権、損害賠償請求権とかそれですね。

他に、作用による分類で支配権、形成権ですね。

この辺は私もよう知らんですけど。

 

で今回注目するのは、利益の性質による分類であって、財産権(債権・契約、請求権)と非財産権(人権・権利能力、行為能力)の話になります。

 

皆さん、ご存知の通り、現憲法下では国民が一番大事なんだってされています。

日本は国民の人権を脅かす恐れのある国家権力を憲法というもので分割して(三権分立)権力濫用(権利利益の侵害)を阻止してくれています。

あ、コイツ、儲けているな、とか、気に食わないなぁとかで税金をふんだくる。

財産没収をするとかって、『勝手に』できないんですよ。

人権(非財産権)(財産権としての債権も)は保障されているんです。

基本的には。

 

じゃ、国が国民に対して何かしらを働きかけるとはどういうことかというと、国会が法律を作ることを言います。

唯一の立法機関である国会が法律を作って、その法律を根拠に行政が我々に義務を課すんですよね。

 

憲法の理念に基づいて作られた法律であれば、精神的自由に対する厳格な審査基準や経済的自由に対する緩やかな基準といった二重の基準の理論により、精神的自由を制約する法律の憲法判断について司法権は積極的に介入し厳格な審査基準の下に行い、経済的自由を規制する法律の憲法判断については国会の判断を尊重することとなります。

この他、合理性の基準における積極、消極的な目的規制から合憲性を判断することがありますが、これらは明らかに条規に反するものでなければ、一応は適法であるのだから、(公定力)(憲98条 この憲法は国の最高法規であって、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない)訴訟の内容にもよりますが、裁判で『違憲若しくは違憲状態である』といった判決があるまでは国民に対し義務を課しても良いという理屈になりますので、法律に対して皆さんに訴えの利益があると主張することで、裁判を起こすことも不可能ではないんです。

(裁判所法3条一項・裁判所は日本国憲法に特別の定めのある場合を除いて一切の法律上の争訟を裁判し、その他法律において特に定める権限を有する。))

 

じゃぁ、国と国民の関係は憲法で保障をするとして、『国民同士の紛争』があったらどうしようって問題を解決するのが民法(国民同士の関係で私法)なんです。

まずは憲法で国民が一番大事、国民主権だよとうたっておいて、且つ人は平等(法の下の平等 憲14条・すべて国民は法の下に平等であって人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において差別されない。≠合理的な事実上の差異による差別は許される)だから、みんなも大切なんだ。

 

みんな国民は権利があって利益を享受していいんですよ。

ほら、公共の福祉に反しない限りにおいてって条文があったでしょ。

道徳としての問題は別として、人の権利を侵害していないなら基本的には許されるんです。

基本的にはって言いましたけど、民法1条各項の基本原則に

・私権は公共の福祉に適合しなければならない。

・権利の行使、義務の履行は信義に従い誠実に行わなければならない。

・権利の濫用はこれを許さない。

という条文があるので、基本的にはと留めます。

でも国民同士で権利利益の侵害があったとする。

モノを壊された(財産)、盗まれた(財産)殴られた(不法行為による損害賠償請求(傷害罪、暴行罪は国と国民との関係で公法の刑法で対応する))

そんなときの事情を公平に解決するために、民法が用意されているんです。

 

人の権利を侵害したことによる民事上の損害賠償はあるんです。

これは私法、民法上の不法行為による損害賠償だから。

*事実行為と法律行為の違い

人を殴った→事実行為(契約によらない・他に事務管理と不当利得がある)→不法行為

仕事で損害が出た→法律行為(労働契約の履行遅滞、不完全履行、履行不能)→債務不履行

(民・709条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う)

(民・415条 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。)

罪刑法定主義って話と自動車運転死傷行為処罰法ができた理由、覚えてますか?

その当時、罪刑が法定されていなかったから罪に問えなかったんですよね。

とんでもねぇ話だ。だから無期懲役にしちまえってわけにはいかなかったんです。

酔っ払い運転で他人の人権を侵害した、世論が動いた。

そして法律(公法)ができたんです。

厳罰に問えるようになったんです。

皆さん、思い出してきました?

 

 

さて、ここから本題です。

今回のテーマで権利利益と行為能力=(債務不履行、損害賠償の前段階の話)

 

みんな権利をもってて利益を享受することは許されてるんです。

人は生まれながらに権利能力が与えられているんです。

生まれてればいいんです。

生まれたばかりの新生児であっても権利義務の主体となれるんです。

右も左もわからない、喋れない、誰が親なのかも理解出来なくてもいいんです。

(例外として、胎児の場合は相続、遺贈、損害賠償請求権については無事に生まれたとき、権利義務の帰属主体という身分が与えられます。)

 

でもって、後半の行為能力。

私的自治、契約自由の原則があるので、何をやっても大丈夫なんだけど、(民法1条他、90条・公の秩序又は善良な風俗に反する法律行為は無効とする)

有効な法律行為と呼ぶには、自分の行為による結果を弁識できる状態でなければならないとされています。

民法は、意思能力を有効な法律行為をするための要件としていて、意思能力のないものがした法律行為は無効であるとしてるんです。

そもそも最初から無かったのだと主張出来るんです。(無効、取り消し、撤回の説明)

(民・3条の二 法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は無効とする)

意思能力があるとは、およそ7~10歳くらいの子供が持っている精神能力とされています。

そこまでに至らない弁識能力なのであれば、子供がしたことですから~といった理由で無効にすることができるんです。

(民・5条三項 第一項の規定にかかわらず、法定代理人が目的を定めて処分を許した財産は、その目的の範囲内において、未成年者が自由に処分することができる。目的を定めないで処分を許した財産を処分するときも同様とする)

(実際に損害が発生していれば、監督責任を問います。(民・714条 責任無能力者その責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者はその責任無能力者が第三者に与えた損害を賠償する責任を負う))

 

ここにも例外があって、見るからに大人なのに弁識能力が不十分であるということもあり得ますので、そのようなときは自己決定の尊重という理念で成年後見制度が設けられています。

(要件:民・7条他11.15条 本人、配偶者、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、補佐監督人、補助、補助監督人、又は検察官の請求により後見開始の審判を行うことができる。)

痴呆症も含まれますが、外形的に大人なのだけど、事理を弁識する能力を欠く常況にある(青年被後見人)弁識する能力が著しく不十分である(被保佐人)、弁識する能力が不十分である(被補助人)といったときに、家庭裁判所の審判によってそのような人がした行為を取り消すことができるとされています。

 

長くなりましたが、審判を受けない我々がした行為には責任がついてくるという話。

民法でも責任能力に関する条文がありますが、大体が12歳前後とされています。

(民・712条 未成年者は、他人に損害を与えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときはその行為について賠償の責任を負わない)

・大正4.5.12 11歳11か月事業中、責任能力あり使用者責任 

・大正6.4.30 12歳2か月遊戯中責任能力なし

虐待を受けていて、断る自由が無かったとか、心神耗弱状態だったとか、いろいろ事情を勘案するんですが、道徳的な良し悪しだけではなくて、損害の賠償をする必要があるか判断できるようになるのがこの年齢ということです。

(刑事責任能力については、刑法・39条 心神喪失者の行為は罰しない。心神耗弱者の行為はその刑を減軽する)

我々のやっている行為、行動はガキの使いじゃないんだから、責任を負わなければならない。

気づかなかった。

言われてなかったから~という抗弁が効かないということです。

もちろん使用者責任というものがあるので、無条件に責任を負うことは無いけれど、何かしらの不利益が発生する可能性があると予想することは出来るわけですから、日本の経済、エネルギー供給に携わる資格者であると今一度自覚をし、安全な荷役に従事していただきたいと思います。

使用者責任(民715条1項・ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行につきて第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。但し、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りではない)

求償権(民715条3項・前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない)

意思能力(自分の行為の法的な結果を弁識できる状態・弁識能力)

 

 

こういう理屈を知ることが知れる。根拠をもって理解することができるって楽しくないですか?

頭ごなしに、「言われたことをやってればいいんだよ」ってなるのではなくて、どうしてそうしなければいけないのかの理由、理屈を知れば、納得できるでしょ?

多分、多くの会社さんが、その理解、理屈を伝えずに、ただやりなさいと言ってるのではないのかなと思うのですよ。

簡単ですもん。

やりなさいって、権力を使って言うの。

ただ、バカにするなって話ですよ。

犬猫にモノを躾けるんじゃないんですよ。

人間ですよ、大人ですよ。

憲法だって、国民に理解しづらい文言にして都合の良い解釈で国民を誘導することもできるだろうけども、日本国民は優秀だから、先人が獲得した権利を大切に育てて今の日本を作ったんですよ。

憲法の理念に基づいて法律ができて、その法律には自分にはこういう権利があって、責任もあって。

そういう理屈を知って、しなくてはならない。なのか、するように努めればいいのか?といった効果や、趣旨、目的、要件の理解をすることで、『こういう事情がある。だからやらないといけないんだ』って納得して自分からやった方が、効率も良いですよ。

 

本当は家庭で教えてくれるのかもしれないけど、道徳と現実は違ってて、自分にはこういう仕組みを教えてくれる人がいなかったから、もやもやとした感情で反発したり、指示をしてきた人にアンタがやればいいじゃんって言い返したり。

なんとなくした方がいいんだろうなとか、なんかわかんないけど、言われたからやっておこうと安易に考えて搾取されたりとか、騙されちゃったりとか。

めちゃくちゃでしたけど、こうした理屈、世の仕組みを理解して、生き方、考え方が変わったなって切に感じていますので、皆さんの中で一人でも自分の中のモヤモヤした霧が晴れてきたよっていうのなら嬉しい限りです。

 

 

 

 

新しい年を迎え、順調なスタートが切れております。

皆さんの日報を勤怠処理する際にチャート紙をガン見しているのですが、引き続き運行計画を立てて走行していることが伺えてうれしく思います。

繁忙期にもかかわらず、会社からのリクエストを体現してもらえていることに、大変感謝しております。

始めることよりも、継続することが何よりも大変なことであるというのは、我々くらいの年齢になれば、誰でも知っていることだと思いますが、それでも只今現在、実践してくれている人があることにありがたい気持ちでいっぱいです。

気を緩めれば、収益なんて直ぐに悪化しますから。

皆の期待に応えられるように、この会社が健全でいられるように。

思い付きで協力をするのではなくて、継続してくれている人が、恩恵に預かれるように頑張っていく所存ですので、皆さんも毎日のことで大変な苦労をされていることと思いますが、今後とも宜しくお願い致します。

 

今回の安全会議をするにあたって、皆さんの仕事に対する取り組みだとか、事故の発生件数を考えると、順調な状況が継続されていますから、特に目くじらをたてて言うことはないんですが、そうは言っても、安全に対する意識というのは、継続して発信していかないと気の緩みが事故につながることは誰もが知っていることですから、この時間を有意義に使うことで気持ちを新たにし、安全な荷役環境を維持する機会にしたいと思います。